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スミレ科Violaceae(4)

 スミレ科の系統分類学を研究されている方が静岡大学におられます。徳岡徹先生です。2008年、Journal of Plant Research に「Molecular phylogenetic analysis of Violaceae (Malpighiales) based on plastid and nuclear DNA sequences.」(色素体および核のDNA塩基配列に基づいたスミレ科(キントラノオ目)の分子系統解析)という論文を発表されています。まさに私の知りたいテーマにぴったり一致する題名の論文です。しかし残念なことにいくら検索しても論文そのものを見ることが出来ません。北大図書館でもすでにJ. Plant Res.については紙媒体の収集はやめていました。論文のAbstractだけはインターネットで見ることが出来ますので訳してみました。

 「Violaceaeの系統解析が、19属、39種からrbcL、atpB、matKおよび18S rDNAのシーケンスを用いて示される。4つの分子マーカーの結果を結合した解析は、ただ1つの最節約系統樹に帰着した。またViolaceae科内の全38のノードのうちの33は50%以上のブートストラップ値で支持される。Fusispermum属は最も基底の位置にある。また、Rinorea属、Decorsella属、Rinoreocarpus属およびViolaceae科の他の属は連続的に分岐する。単独属のFusispermoideae亜科は支持される。またそれはPassifloraceae(トケイソウ科)と多くの祖先形質を共有している(回旋状の花弁・芽層、放射相称花および合着花糸)。別の単独属のLeonioideae亜科はVioloideae亜科内に吸収され、いくつかの種子形態学的特徴を共有するGloeospermum属と姉妹群をなす。現在の分子系統解析は、回旋状で、apotact(?)および交互瓦状の花弁・芽層が科内で連続的に派生したことを示唆する。花糸の合着、心皮数および花の対称性のような他の形態学的特徴の進化的傾向が議論される。」

 この論文では前回・前々回のブログで種類と分布を検討したスミレ科の各属の分子系統解析が行われていて、19属の系統進化が論じられているようなのです。もっと徳岡先生の研究を知りたいと思い、いろいろ検索していましたら、科学研究費助成事業データベースの2010年度 研究成果報告書 に「トケイソウ亜目における種皮の解剖学とその進化の解明」と題したPDFがあり、上記の論文の要旨が系統樹も含めて出ていたのです。

 その中から上記Abstractには書かれていない要点をいくつか引用します。
「スミレ科の単系統性は強く支持された。」「残りのスミレ科は2つのサブクレードに分かれた。一つはAmphirrhox,Gloeospermum, Leonia, Mayanaea, Orthionの5属からなる単系統群であり、その系統関係は概ね強く支持された。もう一つのサブクレードはAgatea, Corynostylis, Anchietea,Hybanthus, Isodendrion, Melicytus,Allexis, Noisettia, Paypayrola,スミレ属の10属からなる単系統群であり、このそれぞれの単系統群もブーツストラップが50%以上で支持された。複数の種を調べた属は全て単系統群になったが、Hybanthus属だけは多系統となり、今後の属内の分類の再検討が必要である。」
「Fusispermum属のみからなるFusispermoideaeは花弁が片巻であること、花糸が合着していること、葯の付属物が雄蕊の腹側にあること、果実が小さなさく果であることなどから他の2亜科と異なっており、分子系統解析による結果もスミレ科で最初に分岐したクレードであり、このまま亜科として取り扱うべきであることが分かった。一方、Leonia属のみからなるLeonioideaeはスミレ亜科内に含まれてしまい、亜科として扱うべきではないことが分かった。」「花弁の対称性はこれまでの科内の分類に重視されてきた特徴であるが、放射相称から左右相称への変化はスミレ科内で何度もおこった進化であることが分かった。」

 系統樹と照らし合わせながらこれを読みますと、とても分かりやすく納得のいく解説です。そこで私はもう一歩踏み込んでこの論文の趣旨を勉強してみることにしました。徳岡先生のこの論文に使用された42種のDNA配列データはすべてGenBankに登録されており、自由に参照することが出来ます。そこで私はNCBIのサイトを通じて、主な15属から1種ずつデータをダウンロードしてみました。私の能力ではそのくらいが関の山かなと思ったのです。しかしそれでは少々情報不足であることが分かったので、Abstractなどにも書かれていて重要だと思われるLeonia属からもう1種、Hybanthus属からもう2種、そして徳岡先生の解析された4領域と同じ領域の配列が登録されているViola属を逆に検索して論文のノジスミレViola philippicaの他にもう1種Viola pubescensを見つけたのでそれも含めて、15属計19種+外群1属1種でSeaviewを用いて近隣結合法で分子系統樹を作ってみました。その結果下の図にありますように、Paypayrola属のみクレードの帰属が異なっていますが、あとはほぼ同じパターンの樹形が得られました。

20140122_220958

 以下この図を見ながら考えます。徳岡先生が言われますように、スミレ科の系統の中で最初に分かれているのは南米のFusispermum属で、この1属をもってFusispermoideae亜科をなすというのが納得できます。そして次に分化したのはLeonia属ではなくて世界の熱帯地方に多数の種をもって広がっているRinorea属でした。私は1種しか取りあげませんでしたが、オリジナルの系統樹ではアフリカの4種と南米の1種あわせて5種が単系統をなしてFusispermum属の次に分かれています。前々回のブログの一覧表ではLeonia属がこの1属でLeonioideae亜科とされていました。橋本保さんの著書「日本のスミレ」でも「科の中のレオニア亜科として区別するべきで、非常に早い時期にスミレ科の主軸からわかれたものであろう」というH. Melchiorの見解を引用されておりましたが、分子系統解析の結果は意外にも一覧表のRinoreeae連とVioleae連のいくつかの属のなす系統の中に埋没してしまって、亜科をなすような古い系統ではないことが示されていました。
 スミレ科の大きな特徴にアフリカ、オセアニア、南米と南半球の遠く隔たった大陸に同じ属の種が離ればなれに分布していることがあげられます。私の作った分布図でもRinorea属ともうひとつHybanthus属がまったく同じようなパターンの分布をしています。しかし分子系統樹ではHybanthus属のみでは単系統をなさず、Violeae連、オセアニアのHymenantherinae亜連、ハワイのIsodendriinae亜連などの属と入り乱れて単系統となることが見て取れます。徳岡先生はHybanthus属がRinorea属のような各大陸にまたがった単属をなすのではなく、いくつかの属の寄せ集めであった可能性を示唆されています。
 最後にViola属はアフリカのAllexis属(及び南米のNoisettia属)と単系統をなしてかなり早い時期にRinorea属と分かれています。私としてはViola属がいつどこで生まれたか知りたいところですが、これだけの材料ではまだ何も言えません。Allexis属と分かれたのはそうとう早い段階ではありますが、スミレ属内の分化はHybanthus属内の分化と比べても相当遅く、あるいは一気に世界中に適応放散したものかも知れないなどと夢想しています。

 私の作った系統樹の右端に赤字で入れたのは花の形態と産地です。これを見ましても放射相称から出発して、その後は各クレード内に左右相称の属が独立して何度も現れます。花の形態は一覧表の連や亜連を分ける重要な基本的指標とされていたのですが、実際は収斂進化による相似形質であったようです。

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