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スミレの閉鎖花(33) まとめ

 前回までで今年撮ったスミレの閉鎖花関係の写真はおしまいです。無茎種として、スミレV. mandshurica、アリアケスミレV. betonicifolia var. albescens、アカネスミレV. phalacrocarpa、ヒメスミレV. confusa ssp. nagasakiensis、ヒカゲスミレV. yezoensis、ヒナスミレV. tokubuchiana var. takedana、サクラスミレV. hirtipes、ヒゴスミレV. chaerophylloides forma sieboldiana、マルバスミレV. keiskei、ミヤマスミレV. selkirkii、スミレサイシンV. vaginata、アメリカスミレサイシンV. sororia。有茎種として、オオバタチツボスミレV. kamtschadalorum、ニョイスミレV. verecunda、イソスミレV. grayi、ナガハシスミレV. rostrata var. japonica、オオタチツボスミレV. kusanoana、フチゲオオバキスミレV. brevistipulata var. ciliata、シソバキスミレV. yubariana、エゾタカネスミレV. crassa ssp. borealis、ニオイスミレV. odorata、アオイスミレV. hondoensis、エゾアオイスミレV. collina、アイヌタチツボスミレV. sachalinensis、エゾノタチツボスミレV. acuminata。以上25種類。そのほかに開放花しか着けないものの参考写真としてナエバキスミレV. brevistipulata var. kishidai、キスミレV. orientalis、ビオラの一種を提示しました。今年栽培して観察したスミレとしてはこの他にタチツボスミレV. grypocerasが閉鎖花をつけましたがあまりに下手な写真なので出しませんでした。それとあとは最後まで開放花だけで、閉鎖花をまったくつけなかったものに、オオバキスミレV. brevistipulata、エゾキスミレV. brevistipulata ssp. hidakana、ケエゾキスミレV. brevistipulata ssp. hidakana var. yezoana、フギレオオバキスミレV. brevistipulata var. laciniataがあります。
 これでスミレの閉鎖花の全体像をまとめることはもとより出来ませんが、一応佐竹・伊藤「日本産スミレ属の分類学的研究 1.閉鎖花について」を参考にしながら、ほんの少しだけ自分の見たことをまとめてみたいと思います。

 花弁は無茎種ではまれに5枚あるものから何も見えないものまでいろいろですが、全体として萎縮していました。有茎種ではまれに2枚しかない閉鎖花もありましたが、概ね5枚あり、萎縮の程度は無茎種より弱く花弁らしい形をしていました。
 雌蘂は無茎種では短く単純な形のものが180度屈曲して子房の方に口を開くのが大勢でした。それに対して有茎種では最終的に曲がる方向とは逆の方に一回屈曲してから子房の方を向く、いわば?の形をしているのが標準のように思えました。
 雄蕊は無茎種では2個が基本のようでまれに3個や5個も見られました。有茎種では逆に5個が基本でまれに2個や3個の場合もあるようでした。
 葯は繭形の二つの半葯に分かれ、有茎種では多少細長い印象ですが、いずれも半葯は1室で出来ているのが基本のようでした。成熟した葯は無茎種では上部にぽっかりと穴が開いたような孔裂開の形が基本のようです。それに対して有茎種では上部からやがて下部まで縦に裂開するいわゆる縦裂開の形が基本のように見えました。不明なものも1、2種あり、来年への宿題です。
 開放花の解剖はほとんど出来ませんでしたが、いくつかの種では半葯が2室に分かれ、成熟するとそれらの2室が合体して1室となり、その合わせ目が縦に割れる縦裂開によって花粉を出すのが標準のようです。

 最後に再掲になるかもしれませんが、近縁なナエバキスミレの未熟な開放花(写真 1.)とフチゲオオバキスミレの未熟な閉鎖花(写真 2.)の雌蘂・雄蕊の写真を掲げます。

Img_2357 写真 1.

Img_2222 写真 2.

 先に書いた以外にも、開放花の雌蘂はどの種でも子房の上部で極端に細くなってそこで屈折します。これは訪花昆虫の接触などで柱頭がそこで曲がりやすいための適応形質らしい(田中肇「花と昆虫がつくる自然」)のですが、閉鎖花は昆虫とは関わらないので、屈折のある場合でも太さは変わらないようです。また閉鎖花では葯は小さくて雄蕊に花糸があるのに対して、開放花では大きく細長く花糸がほとんど見られません。

 このようにスミレの同じ一株につく開放花と閉鎖花ではその形態に大きな違いがあります。閉鎖花の利点は少ないエネルギー投資で効率的な種子生産ができるということのようです(森田竜義「植物の世界草本編(上)ナガハシスミレ」。閉鎖花は自家受粉によって種子生産を確実にしようとする適応と考えられていて(菊沢喜八郎「植物の繁殖生態学」)、実際、速水将人さんたちの研究でも、北海道内3ヶ所のフチゲオオバキスミレの開放花と閉鎖花の結実率を調べた結果、閉鎖花は開放花の結実低下を補っていることが見いだされました。 日本はスミレの国と言われています(浜栄助「原色日本のスミレ」)。それほどの繁栄にはスミレ類の閉鎖花による大量の種子散布も大きく貢献していると思われます。

 しかし中には北海道のフチゲオオバキスミレのように太平洋沿岸の狭い地域に点々と分布していて、どうみても遺存的で、現在の気候・環境下ではこれからどんどん分布を拡大するようには思えないものもあります。一方、古いオオバキスミレの系統から分化したと思われる閉鎖花をつけないオオバキスミレの集団が北海道の道南・道北に見られます。このオオバキスミレはもっぱら根茎を伸ばすクローン成長によって繁殖しているようなのです(速水将人・他「Intraspecific variation in life history traits of Viola brevistipulata (Violaceae) in Hokkaido」)。

 道内広い範囲に見られるフギレオオバキスミレも閉鎖花をつけませんのでこれもさらにこのオオバキスミレから新しく生まれたのではないかと想像されます。北海道ではフチゲオオバキスミレに比べて、これらのオオバキスミレ・フギレオオバキスミレの方が現状ではある程度成功を収めているように思われます。フチゲオオバキスミレと違って河川敷や河畔斜面、さらには雪崩斜面から雪田斜面へとニッチを開拓できているようです。根茎を伸ばしてその先に新しい芽をつくるクローン成長は、水流や斜面崩壊によって、途中で切れても切れ端から新たな個体として成長することが出来ます。まるで自家受粉によるクローン種子をばらまく閉鎖花と似ていないでもありません。

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