スミレの閉鎖花
スミレ類の閉鎖花とは一体全体どんなものなのかということに興味が湧いて、この夏から顕微鏡でその構造を見始めるとともに、関連した先達の文献をもう少し徹底して収集してみようと思い立ちました。
国内最大の論文データベース国立情報学研究所の論文検索サイトCiNiiで「閉鎖花 スミレ」で検索するとただ1件だけHitします。畑中佑紀・井鷺裕司「都市の植物個体群における遺伝的特徴の不均一性」という論文です。タチツボスミレを材料として都市部での生育地断片化による遺伝的影響について研究した論文で、遺伝的多様性が低い原因の一つとして閉鎖花による自家受粉が取り上げられているだけです。この論文は独立行政法人科学技術振興機構 (JST) が構築したデータベース、科学技術情報発信・流通総合システム=J-STAGEから収録したと付記されています。
そこでこんどはJ-STAGEに移動して同じ検索を行ってみると、こんどは2件がHitします。追加されているのは澤田みつ子・他「茨城県菅生沼における火入れがオギ二次草原のタチスミレに及ぼす影響」。しかしこの論文でも絶滅危惧種タチスミレ調査地における概要説明の中で開放花の後晩秋まで閉鎖花によって種子を生産すると述べられているだけです。閉鎖花の構造やなぜ閉鎖花が出来るのかといったような疑問に答えるものではありません。
ちょっと本題から外れますが、両者の検索結果が一致しないのは、CiNiiでは題名と著者の附したキーワードから検索しているのに対し、J-STAGEではOCRによる全文を対象とした検索結果を提示する違いだと思われます。
こんどは「cleistogamous Viola」でも検索してみます。CiNiiでは4件がHitし国内関係では畑中・井鷺論文の他に増田理子・矢原徹一「Dispersal of Chasmogamous and Cleistogamous Seeds in Viola hondoensis W. Backer et H. Boiss」が出てきます。アリによるアオイスミレの開放花と閉鎖花の種子散布距離に違いがあるかどうか実験した論文です。
一方J-STAGEで「cleistogamous Viola」で検索すると8件がHitします。国内関係は7件で、ひとつは畑中・井鷺論文、あとの6件は全て植物学雑誌の牧野富太郎博士の論文です。1905年の「雑録」2件には「閉鎖花ヲ生ズル本邦植物」と「閉鎖花ヲ生ズル本邦植物ノ追加」が掲載されていて合わせて15科25種ほどが掲げられています。スミレ科についてはすみれ諸種と書かれています。あとの4件は「Observation on the flora of Japan」と題した連続報文で、数多くの植物の新記載がなされるなかでViola属の合計5種類の定型的な記載文にcleistogamous flowersという言葉が含まれています。近年の植物図鑑などのスミレの記載に閉鎖花のことが書かれているものはまず見た事がないので、さすが牧野富太郎博士だと思いますが、85年間分の植物学雑誌でわずか5ヶ所だけというのは植物用語として相当マイナーなのだなと思いました。
またもや横道にそれますが、植物学雑誌に「閉鎖花ヲ生ズル本邦植物」として「すみれ諸種」が取りあげられているのですから、「閉鎖花 スミレ」で検索してHitしないのはどうしたわけでしょう。「閉鎖花 すみれ」でも同じです。原文が縦書きなのでOCRでうまく文字が繫がらないのだと思います。OCRそのものの誤変換などの問題も残っていますが、とにかく85年間分の植物学雑誌の全記事、その他全250万タイトルの記事の全文を対象に検索し、Hitした論文の本文を全てブラウザーで閲覧したり、Downloadや印刷が出来ることは本当にありがたい事だなと思います。
いろいろ寄り道をしましたが結局の所、CiNii、J-STAGEでは私の望む情報は得られませんでした。
2年ほど前、Googleで「スミレ 閉鎖花」で検索していて、酒井重樹「閉鎖花の形成における環境要因及びホルモンの影響」という論文を見つけています。兵庫教育大学の学術情報リポジトリに登録されている修士論文で、誰でも自由にDownloadすることが出来ます。この論文は70ページにも及ぶ大部なものですが、前半が「スミレ属の閉鎖花に関する研究」、後半が「ヤブマメ属の閉鎖花に関する研究」で、題名のように全体として生理学的な研究が主ですが、導入として形態学的及び生態学的観察結果も報告されていて、日本のスミレ属の閉鎖花に関して真正面から取り上げた論文としては、これがインターネットで私が見つける事の出来た唯一のものでした。
牧野富太郎博士の「閉鎖花ヲ生ズル本邦植物」の一部
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