スミレの閉鎖花(9) ヒカゲスミレ
今回はヒカゲスミレV. yezoensisの閉鎖花。栽培中の一鉢から得られたものです。連続写真3枚を挙げます。
週間朝日百科「植物の世界 69号」(1995)はスミレ・パンジーの特集号で、森田竜義「受粉の合理化を極めた花たち」が載っています。スミレの葯や花粉について書かれている部分を引用します。
「閉鎖花は長さが僅か2ミリ程度。がくによって固く閉じられているので、一見、蕾のように見える。花弁は痕跡的で、距や蜜腺も欠く。雌しべの先は湾曲し、柱頭と葯はぴったりと接触している。葯は裂開せず、驚いたことに花粉は葯内において発芽して,花粉管は葯の壁を貫き,雌しべへと伸びて受粉が行われる。つまり,送粉という過程を完全に省略した、合理化の極致とも云える花なのである。まさに究極の自家受精といえよう。」
「開放花と閉鎖花の違いのうち意外に重要なのは、種子生産に必要なコストの大きさである。前述したように、花の大きさや花弁、蜜腺の有無のほか、花粉数も違い、閉鎖花のコストは低い。例えば,ナガハシスミレの花粉数を比べて見ると、閉鎖花においては1花当たり1000個弱であり、開放花の3万~5万個に比べて著しく少ない。受精効率が良いので、僅かな花粉で十分なのだろう。」と書かれています。花粉数が少なくて十分ということが、形態としての小さな葯、それを柱頭まで持ち上げるための細長い花糸を作ったのだと思われます。
別の閉鎖花ですが葯から花粉管が伸びる様子。
これも別の閉鎖花の花粉管の様子。
写真 5.と同じものの全体写真。すでに受精したと思われる胚珠(成熟して種子となるもの)が数十個見えています。受精しなかったものもあるかも知れませんので、もともと100個ほどもあったかも知れません。胚珠の数を花粉数で割ったものをP/O比といい、交配様式別にまとめたCruden「Pollen ovule ratios: A conservative indication of breeding systems in flowering plants. 」(1977)では閉鎖花では4.7±0.7(平均±標準誤差)とされています。これは完全な他殖の植物の場合のおよそ1/1000になっています。もしかしたらこのヒカゲスミレでは花粉の数は開放花よりもずっと小さい葯の中に数百個しかないのかもしれません。写真を見ますと多少無駄もあるようですが、それだけあれば十分なのでしょう。
鉢植えでの閉鎖花と閉鎖果。
おまけですが、今年の6月13日に苫小牧で写したもの。開放花はすでにほとんど終わっていました。
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