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スミレの閉鎖花(5) スミレV. mandshurica

 栽培中のスミレV. mandshuricaの閉鎖花です。今年の8月21日に採取し、すぐに解剖しながら写真に撮ったものです。
 佐竹・伊藤論文の閉鎖花の概略説明に於いて「外形は、自家受精して成長した子房が、がく片の間から露出するまでは、開花する花のつぼみとほとんど見分けがつかないほど似ている」とあります。以下の写真は鉢栽培のスミレV. mandshuricaの開放花が終わり、花が咲いていないのに実がなり始めてから採ったものです(他の種についても同様です)。

Img_1927 写真 1.

Img_1928 写真 2.

Img_1929 写真 3.

Img_1931 写真 4.

 写真 1.~4.まで一つの閉鎖花を順次解剖しながら写真を撮ったものです。写真の上部に写っているのは定規で、黒いバーの間隔は1mmです。写真 4.の上部にも写っているのが分かると思いますが、定規を写し込める限り入れてあります(今後も同様です)。

 写真 2.~3.では萼片にくっついて花弁が4枚写っています。このように特に無茎種では花弁が萎縮あるいは退化して、成長せずに留まっていたり、左側の1枚のように痕跡的になっていたりします。この閉鎖花の場合残りの1枚は元からなかったものか、解剖途中で壊れてしまったのか見当たりませんでした。花弁の状態は それぞれの閉鎖花によって(あるいは種によって)様々で、論文でも以下のように書かれています(論文中の図を指示する文言は省略します、以下同様)。

 「無茎種では花弁は萎縮し、わずかに鱗片様を呈して痕跡をとどめているものか、あるいは全然ない。萎縮弁であっても5個あるものはごく少なく、多くは下弁だけがみとめられるにすぎない。」
 雄蕊は写真 2.で2個重なっていて、写真 3.~4.でそれをはずしてあります。無茎種の雄蕊の概略について論文では以下のように書かれています。

  「雄ずいは開花において脚柱をもつはずの2個、すなわち下弁に隣接する2個だけが成長し、葯は卵形で離れてついており、多数の花粉粒をもっているものが大多数で、3個ないしそれ以上の雄ずいが発達していても完全ではない。ある場合は完全に発達する2個のうちの1個さえも不完全のものがある。」
 「花糸は、開花のものにくらべて非常に細く長く、葯隔は広く大きい。葯は、長さ幅とも開花の葯の1/2程度である。」
 以下、子房と花柱に関する論文の記述。「子房は、未熟時においては長さ1.5~2mmでほぼ開花の子房にちかいが、花柱は極端に短かく、大部分のものが下方すなわち下弁の位置する方向に急カーブに180°近く屈曲し、2個の雄ずいのもつ葯隔付属物でぴったりとおおわれている。子房が成長すると雄ず いは花柱を包んだまま付け根からひき離されて上部にもち上げられ、なかには花糸が子房の外皮に埋没してしまうものもある。」

 柱頭については以下のように述べられています。「湾曲した花柱の先端にある柱頭は広く大きく口を開いて、柱頭口は満開時の開花の柱頭の4~5倍の大きさがあり、未熟のものでは子房と同じく淡黄緑色を呈し、やや透明で、粘着性の分泌物でしめっている。熟したものでは、柱頭周辺は膨張肥大して、内部組織は外面に向かって反曲し、 濃黄色に発色している。」

 次の写真は未熟なスミレV. mandshuricaの閉鎖花です。

Img_2536_2 写真 5.

 論文にも書かれているのですが、どの種においても葯が成熟して花粉粒が発芽出来るようになると、葯隔の付属物は写真 4.のように薄茶色に発色します。未熟な内はこの写真のように半透明な乳白色をしています。また写真 3.~4.では花粉は発芽して柱頭に吸い寄せられるようにくっついていて、葯の形が分からなくなっていましたが、この写真で論文に書かれてある卵形(私には繭型にも見えるのですが)であることが分かります。

 柱頭は未熟な内から先端全体が柱頭口となり、受粉時にはもっと広がります。この状態がもう少し良く分かる写真を次に載せます。

Img_2407 写真 6.

 最後の写真はスミレV. mandshuricaの閉鎖花を半分に切断した写真です。短い花柱が深く曲がり、裂開した葯と接触しているのが分かると思います。

Img_1704 写真 7.


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