スミレの閉鎖花(3)
他にもスミレの閉鎖花について書かれた本がないかと、スミレ関係の写真集や図鑑などを片端から見て行きましたが、ほとんど何も載っていませんでした。少し範囲を広げて探してみて、多少なりともそれについて項目を掲げて書かれていたものを以下に挙げてみました。
多田多恵子「したたかな植物たち: あの手この手のマル秘大作戦」(2002)タチツボスミレの閉鎖花の図
多田多恵子「種子たちの知恵」(2008)タチツボスミレとアメリカスミレサイシンの閉鎖花の写真
多田多恵子「野に咲く花の生態図鑑」(2012)アオイスミレとタチツボスミレの閉鎖花の写真
多田多恵子・田中肇「植物の生態図鑑」(2010)タチツボスミレとスミレV. mandshuricaの閉鎖花の写真
新井二郎「スミレ讃歌」(1998)コスミレの閉鎖花の写真
小林正明「花からたねへ」(2007)ヒカゲスミレの閉鎖花の写真(閉鎖花から閉鎖果まで10個の写真を並べている)
山田隆彦「スミレハンドブック」タチツボスミレの閉鎖花の写真
鷲谷いづみ・埴沙萠・田中肇「花はなぜ咲くのか?」(2007)スミレV. mandshuricaの閉鎖花の写真
森田竜義「受粉の合理化を極めた花たち」朝日新聞社「植物の世界 69 スミレ パンジー」(1995)イブキスミレとナガハシスミレの閉鎖花の写真。スミレ類だけでなくトマトの自家受精に始まって、センボンヤリ、オニバス、ヤブマメの閉鎖花、そしてセイヨウタンポポの無融合生殖に至るまで受精のメカニズムについて詳しく解説
インターネット上でスミレ類の閉鎖花の写真や、構造などを研究した記録などがないかどうかも調べて見ました。国内関係では閉鎖花あるいは閉鎖果の写真を30種類ほど見る事が出来ましたが、そのなかでも特に福岡教育大学の福原達人さんのホームページにナガバタチツボスミレの閉鎖花・閉鎖花の縦断面・花柱付近の縦断面・閉鎖花の葯壁・受精後の胚珠の写真、コスミレの閉鎖花由来の果実の写真が掲載されています。高倍率の顕微鏡のすばらしい写真もあって出色です。
インターネットと文献を総動員してスミレの閉鎖花についての研究を探しましたが、生理的・生態的な研究はいくつか見つけましたが、基本となる形態的な研究が見当たりません。本当にそうなのだろうか、今まで日本ではそのような研究が行われてこなかったのだろうか。そんなはずはない、やはり探し方が足りないのだろうと考え、もう一度漏れているものがないか見直しました。
酒井重樹「閉鎖花の形成における環境要因及びホルモンの影響」という論文は1983年に書かれたものですが、その最後に参考文献が書かれていて、その中ですぐには入手出来なかったのでそのまま放置していた文献が3つあるのを思い出しました。
佐竹義輔・伊藤栄子「日本産スミレ属の分類学的研究」国立科学博物館研究報告第7巻第1号(1964)
原沢伊世夫「閉鎖花の受精と結実」植物と自然17(4)(1983)
岡本素治訳「スミレの生物学」Nature Study 27(6)(1981)
の3点です。国立科学博物館研究報告は北大理学部図書室にありました。「植物と自然」は森林総合研究所に収蔵されていたのでネットで複写申込みしました。Nature Studyは大阪自然史博物館友の会の会報で友の会に入会すればpasswordをもらえて全ての号がブラウザーを通して閲覧できるとの事。すぐに申し込みました。
Nature Studyの「スミレの生物学」は「Annals of the Missouri Botanical Garden Vol.61」(1974)に掲載されているBeattie, Andrew J「Floral Evolution in Viola」を学芸員の岡本素治さんが訳されたものです。スミレの花の形態と訪花昆虫との相互進化について研究した論文で、スミレに来て逆立ちする虫の話はとても興味深かったのですが、閉鎖花については触れられていませんでした。
原沢伊世夫「閉鎖花の受精と結実」では、スミレ属の閉鎖花については2ページに渡って書かれ、今までの文献では得られなかった重要な指摘がいくつもありました。閉鎖花の位置やつくりによって三型に分け、それぞれの代表としてタチツボスミレ・エゾアオイスミレ・ノジスミレの図も掲げられています。「花粉はやく胞内で発芽し、やくは押しつぶされて破れ」という記述も他には無いものです。「閉鎖花の花柱は短く、つり針状に曲がっているか、ニオイスミレのように果皮にへばりついているものでは、果実の成熟後でも識別できる。」という指摘も重要だと思いました。後半部ではヤブマメ・コミヤマカタバミ・オオミゾソバなどの閉鎖花について書かれています。
最後に、佐竹義輔・伊藤栄子「日本産スミレ属の分類学的研究」のことを書きますが、その前に、この文献を複写するために北大理学部に行くのですから、ついでに図書室に収納されている和雑誌類でスミレ属に関するものがあればこの際全部入手しておこうと、事前に検索して用意して行きました。
そのなかで収穫だったのは田中肇「スミレとタチツボスミレの受粉」遺伝33(10)(1979)です。スミレV. mandshuricaについて、開放花と閉鎖花の構造と機能についてそれぞれ詳しく記載し、9株36個の花の集団をマークして終日訪花昆虫を調査、コマルハナバチとニッポンヒゲナガハナバチが最も効率よい花粉媒介者であることを明らかにし、さらにその結実率も明らかにしています。同じ調査をタチツボスミレについても行っています。
田中肇さんという方は高校卒業後貴金属細工職人をしながらアマチュア研究者として日本における花生態学のさきがけとなった方です。たくさんの本を書かれていますので、それらの本も何冊かチェックして見ましたが、花と昆虫の関係がテーマなので、昆虫の来ないというか昆虫を拒否した閉鎖花についてはほとんど記述がありませんでした。そんな訳でこの論文でスミレV. mandshuricaの閉鎖花の構造についても詳細に記述し、タチツボスミレについても省略してはいますがきちんと見ておられる事に驚きました。
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